バドミントンにおいて、ネット前でシャトルを短く落とす「ヘアピンショット」は重要な技術の一つです。初心者には難しく感じられるかもしれませんが、正しいフォームや練習を積み重ねることで誰でも習得できます。
この記事では、ヘアピンショットの意味やバリエーション、基本的な打ち方から練習方法、戦術面での活用法まで、プロの視点を交えて詳しく解説します。練習のポイントや上級者の技術も紹介するので、これを読めばヘアピンへの理解が深まり、技術向上につながります。
目次
バドミントンのヘアピンとは?基礎知識と特徴
ヘアピンショットとは、ネットぎりぎりにシャトルを浮かせて相手コート前方に短い軌道で落とすショットのことです。名前の由来は、打球の軌道が髪留めのヘアピンの形に似ているからといわれています。
英語では「hairpin net shot」と呼ばれ、通常ネット前やネット寸前でアンダーハンド(下から持ち上げる)スイングで打ちます。シャトルは低速になり、ほぼ「止め」を狙うようなショットになるため、非常に繊細なコントロールが求められます。
ヘアピンの最大の特徴はシャトルの滞空時間が長くなることです。スピードの速いスマッシュやドライブとは対照的に、ヘアピンではシャトルがネットを越えてから相手コート側のネット際に向かってゆっくり落ちます。プロ選手のヘアピンを見ると、ネットに体を近づけて重心を低くし、ラケットを柔らかく振っている場面が多く見られます。
ヘアピンショットの意味と由来
ヘアピンショットの名称は、シャトルの飛行軌道が女性の髪を留めるヘアピンに似ているところからきています。シャトルはネットを越えた後、一度上昇し、そこからアーチを描いて相手コートへ落下します。
つまり、ショットの頂点(アーチの頂点)が自分のコート側に来るように調整し、相手コートのネット際ギリギリに打つのが理想です。トップ選手はこの点を意識しており、ネット近くでふわっと当てるように打つことで、相手に返球を許しにくいヘアピンを打っています。
ヘアピンショットの種類(ストレート/クロス/スピンヘアピン)
ヘアピンショットには大きく分けて以下の種類があります。用途や状況に合わせて使い分けると効果的です。
- ストレートヘアピン:打った方向に真っ直ぐ落とすヘアピンです。相手の利き腕側に落ちることが多く、コースの予測を難しくします。
- クロスヘアピン:体の逆サイド(フォアと逆の方向)にクロスさせて落とすヘアピンです。相手を左右に大きく揺さぶれます。
- スピンヘアピン:シャトルに回転(トップスピンなど)をかけてネット際で不規則に落とすヘアピンです。弾み方が変わるので、返球を難しくします(別名「スピンネット」)。
ストレートとクロスはコースの違いで使い分け、相手の体勢を崩すのに有効です。スピンヘアピンは技術的に難しいですが、強力な武器になります。
ヘアピンショットの利点と役割
ヘアピンショットの最大の利点は、相手を前に詰めさせる点にあります。相手に前に出るプレッシャーをかけることで、後ろのスペースを空けたり、体勢を崩させたりできます。また、ラリーのテンポを緩める効果もあり、試合中の緊張した場面で相手の勢いを止めることができます。
さらに、ヘアピンがうまく決まると相手はほとんどスマッシュしか狙えない状況になり、こちらが次の攻撃に移りやすくなります。逆に、ヘアピンはミスすると相手にスマッシュやプッシュで返されやすいリスクも伴います。したがって、ヘアピンを使う場面を見極め、コントロール良く打つことが重要です。
ヘアピンショットの正しいフォームと打ち方

ヘアピンショットでは、体重移動とラケットワークが鍵となります。まずは基本姿勢からおさえましょう。ラケットは軽く握り、下半身の構えを低くして準備します。ヘアピンは腰のあたりから低い位置で打つことが多いため、ひざを曲げて低く構えると安定します。
次に、足の踏み込みです。ヘアピンでは前足(例えば右利きなら右足)を大きく踏み出し、体重をしっかり乗せながら打ちます。トッププレーヤーは深く踏み込んでシュートの勢いを吸収し、ラケットの小さな振り幅でシャトルを運びます。足で勢いを緩和することで手首への負担が減り、正確な位置に落としやすくなります。
足の踏み込みと重心移動
ヘアピンでは踏み込む足が全てです。相手のネット前でシャトルを拾ったら、反対側の足を一歩前に踏み出し(体勢によってはその場で前に踏み込むだけでも可)、前足に体重を移して打ち出します。踏み込んだ足で地面を強く押すことで、ラケットを大きく振らなくてもシャトルに十分な力を伝えられます。打つ瞬間は体全体でバランスを取り、重心は低く保つように意識しましょう。
【練習のポイント】ヘアピンは足の使い方が重要です。トップ選手も意識的に深く踏み込んで打っていますので、最初はフォーム練習で「しっかり踏み込む」感覚を身につけましょう。
適切なラケットの振り方と打点
打点は体の中心より前(ネット側)をとらえるのがコツです。ラケット面はやや上向きにし、シャトルをサイドにこすり上げるイメージで当てます。握りはややゆるめ、ラケット自体をスナップさせるのではなく、腕全体と体重移動でシャトルを押し出します。
アンダーハンドで持ち上げる基本フォームに近いため、大きな振りではなく、ラケットのフェースをコントロールして「運ぶ」ように打ちます。相手コートのネットすれすれを狙うため、ラケット面が上を向きすぎないように注意しつつ、手首を柔らかく使って慣性の力を利用するのがポイントです。
フォアハンドとバックハンドヘアピンのポイント
フォアハンドとバックハンドではフォームが少し異なります。フォアハンドヘアピンの場合、通常ティッシュペーパーや前進しつつ打つように大きく踏み込みます。右利きなら右足を前に出し、左手を上げバランスを取りながら打ちます。腕全体を使ってスイングするのではなく、肘から先程の位置保持を意識すると安定します。打点は腰より低い位置で捉え、ラケットを下からすくい上げるようにします。
バックハンドヘアピンでは、体の前に左足(右利きの場合)を踏み出しつつ、胸をネットに向けます。リバースグリップ(覆いかぶせぎみのグリップ)に変えると打ちやすい場面もあります。意外と難易度は高いため、足を踏み込んだら左腕のひじを引いてその勢いを生かし、手首を効かせてシャトルを前に運びます。どちらの場合も腕の力に頼りすぎず、体重移動でしっかりシャトルに力を伝えましょう。
ヘアピンショットの練習方法と上達のコツ

ヘアピンは基礎練習でフォームを覚えたら、徐々に実践に近い練習へと進めます。基本練習では、一人または二人でネット近くに立ち、近い距離でヘアピンのラリー(ノックプレイ)を繰り返すのが効果的です。相手にシャトルを投げてもらうなどして、なるべくネットに近づけて安定して落とす練習をしましょう。
慣れてきたら、フットワークを加えた練習も重要です。コーチや練習相手が左右からシャトルを打ち分けて動かしてくれる中でヘアピンを返すドリルなどを取り入れます。これにより、実際の試合で相手に動かされても正しい足の踏み込みとフォームで打てるようになります。
【練習のヒント】ネットを隔てたノック練習から始め、慣れてきたら移動しながらヘアピンを打つ練習に進みましょう。実戦を想定して連続で動かされる中でヘアピンを練習すると、よりコントロールが磨かれます。
ノック練習による基本練習
ネット前でのノック練習はヘアピン習得の基本です。ペアで向かい合い、ネット越しにショートラリーを続けます。シャトルを目の前でコントロールし、サービスラインより前に落とす感覚を身につけましょう。初めはラケット面を固定し、正確に浮かせて返すことを意識します。徐々にスピードや変化を加え、お互いにミスなく続けられるようにします。
フットワークと連携した実践練習
次のステップとして、相手が左右に動きながらヘアピンを打ち合う練習をします。シャトルを打つ位置が変わるため、素早いステップワークが必要です。ワンステップ後にヘアピン、スリークッションやクリアで返球するなどバリエーションを混ぜて練習すると、ネット前での反応と体制維持力が鍛えられます。
上達のためのトレーニング方法
ヘアピンの精度を上げるには繰り返し練習するだけでなく、自分の課題を意識しながら取り組むのが大切です。「ラケットを硬く握りすぎない」「常に目線をシャトルから離さない」「踏み込む足を意識する」など、練習中にチェックポイントを設けましょう。
また、体幹や脚力を鍛えることも効果的です。ヘアピンでは低い姿勢で踏み込むので、腰や脚の筋力が支えになります。自宅でスクワットなど下半身を強化するトレーニングや、ジャンプ系のドリルも取り入れておくとプレーの安定性が増します。
ヘアピンショットの戦術的活用とメリット・デメリット
ヘアピンショットは攻撃の起点にも、防御の一手にもなります。主にシングルスで頻繁に見られるショットですが、ダブルスでも相手前衛を下げる意図で使われることがあります。ここでは、シーンごとの使い方とメリット・デメリットを整理します。
ヘアピンショットの効果的な使い方(シングルス vs ダブルス)
シングルスでは、相手を前に釘付けにするためにヘアピンが有効です。前後の動きを繰り返す中で、「落ちないように前に詰める」プレッシャーをかけられるので、相手の足を止めてチャンスを作れます。一方ダブルスでは、ネット前の速い攻防が目立つことから、プッシュショット(ネットプッシュ)やネットキルが多用されますが、あえてヘアピンを混ぜると意表を突くことができます。
相手を揺さぶるバリエーションと配置
ヘアピンは相手を左右に振る使い方が肝心です。例えば、フォア側のストレートヘアピンで相手を前に出し、次のショットで逆サイドへ展開することで二段構えになります。クロスヘアピンは相手を深く走らせやすく、次のフォアサイドに戻すプレーがしやすいです。打つ際は、相手の体勢を観察し、回り込んでいるか起き上がれないかなど状況を見ながらコースを変えると効果的です。
ヘアピンのメリット・デメリット
メリットとしては、「相手に思い切りスマッシュを打たせない」「相手のコート前にスペースを残せる」などがあります。意識してうまく入れれば、相手はネット手前まで詰めるしかなくなるため、その後の速攻やドロップに繋げやすくなります。打球スピードが遅い分、技術だけでなく視線のコントロールで相手を動かせる点も利点です。
一方、デメリットは失敗した際に相手有利になる点です。ネットに近過ぎると持ち上がり、プッシュやコントロールショットで攻め返される危険があります。また、ラリーが長引くと体力を消耗しやすいのも注意点です。そのためヘアピンを使う際はリスクも踏まえて、無理のない範囲で確実に落とせるタイミングを選びましょう。
ヘアピンショットと他のネットショットとの違い

ヘアピンショットは似たようなネット前ショットと比較して特徴的な軌道と役割があります。以下の表でヘアピン、プッシュショット、ネットキル(ショートスマッシュ)などを比較します。
ショット | 軌道・特徴 | 用途・効果 | ポイント |
---|---|---|---|
ヘアピンショット | 軌道の頂点が自陣側にあり、ネットすれすれに落ちる シャトルの速度は非常に遅い |
相手を前に詰めさせ、ラリーのテンポを落とす 相手の前衛を崩す攻撃にも |
足の踏み込みと体重移動が重要 ラケットは柔らかく持ち、微調整でコントロール |
プッシュショット(ネットプッシュ) | ネット付近を低く高速で通すショット シャトルは短距離でサイドに沈む |
ダブルスで相手を慌てさせる攻撃 連続攻撃の起点 |
ラケットをやや閉じて押し出すように打つ シャトルを浮かせないのがコツ |
ネットキル(ショートスマッシュ) | ネット上を直線的に高速で飛ぶショット 滞空時間は非常に短い |
相手がネット際で浮かせたときの決定打 相手を圧倒する攻撃 |
ネットすれすれを狙い、シャトルを速く通過させる 硬い振りで強打する |
ドロップショット(ロングドロップ) | コート後方から前方への放物線ショット ヘアピンより頂点が高め |
相手を後ろから前への動きに誘導 ネット前を大きく使う攻撃 |
位置を変えてコースを狙う 落とす位置を正確に設定 |
表からもわかるように、ヘアピンは他のショットに比べてシャトルの頂点が低く落下が緩やかです。一方、ネットプッシュは速く沈むので相手に反応時間を与えません。状況に応じてこれらを使い分けることで、より効果的なネット前の戦術が取れます。
まとめ
バドミントンのヘアピンショットは、正確なコントロールが求められる網前のショットです。名称は飛翔軌道が「ヘアピン」の形に似ていることに由来し、ネット際にシャトルを落とす戦術的価値が高いプレーです。本記事で紹介した通り、ヘアピンの基本技術は「深く踏み込む足」「適切なラケット面」「低い打点」です。練習ではまず基礎フォームを固め、実践練習で動きを加えながら感覚を磨くことが大切です。
ヘアピンが上手になると試合での攻め手が増え、相手の前衛を揺さぶることができます。メリット・デメリットを理解しつつ、シングルスやダブルスで最適な場面で使えるよう練習を重ねましょう。正しい知識と継続的な練習があれば、初心者でも効果的なヘアピンを打てるようになります。ぜひ今回のポイントを参考に、ネット前の得点力アップを目指してください。
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