バドミントンは球技の中でもシャトル速度が際立って速いスポーツとして知られています。
世界記録としては外国人選手がスマッシュ初速493km/hを記録して話題になりましたが、その速度は打った瞬間だけの数値です。
飛行中の空気抵抗で大きく減速し、選手の手元に届く速度はむしろ100~200km/h程度になります。
本記事では、バドミントンにおける「速度」の世界記録やその測定方法、速度に影響するメカニズム、他のスポーツとの比較、そして速くするためのトレーニング法などを詳しく解説します。
目次
バドミントンの速度:世界記録と測定方法
バドミントンは他の球技を凌ぐ高速スポーツで、公式記録上は2013年にマレーシアのタン・ブンホン選手(Chen Wenhong)がスマッシュの初速493km/hを記録しています。
しかしこれは打った瞬間の「初速」であり、もともと極めて軽いシャトルは飛行中に急激に減速するため、相手コートに届く頃には速度は大幅に低下しています。
実際の試合中での最速記録としては、2017年にデンマークのマッズ・コールディング選手が426km/hのスマッシュを放った例があります。
世界トップ選手のスマッシュ初速でも400km/h前後とされ、通常プレーではそれよりやや遅い速度になります。
女子選手では公式記録こそありませんが、例えば2016年マレーシアオープンでラチャノック・インタノン選手が372km/h前後のスマッシュを記録したとされ、男子に比べるとやや低速となります。
バドミントン最速記録の概要
ギネス世界記録に認定されているバドミントンの最高速度は、2013年にマレーシアのタン・ブンホン選手によって記録された時速493kmです。
この記録はスマッシュを打った瞬間の初速で、最適化された環境下での測定結果です。
それでも、これほどの速度を記録できることはバドミントンがいかに高速スポーツであるかを示しています。
記録達成者と条件
記録を達成したタン・ブンホン選手は、2013年に日本で特別に設定された測定環境で世界記録を樹立しました。
この測定では複数の超高速カメラを使い、打撃直後のシャトルの移動距離から初速を逆算しています。
公平な試合環境ではなく、最高速度を出しやすい状況で行われた記録である点に留意が必要です。
速度測定の仕組み(レーダー測定とカメラ測定)
バドミントンの速度はレーダー式の速度計でも測れますが、ラケットやシャトルが動く微小な時間差をとらえにくい点があります。
試合以外の測定では高速カメラによる撮影が用いられ、シャトルの放たれる直後の動きを細かく解析して初速が算出されます。
高速カメラ測定ではシャトルが打ち出される瞬間を正確に捉えられるため、実戦よりやや高めの速度が記録されやすくなります。
ギネス世界記録と試合記録の違い
ギネス世界記録での速度測定は、専用の環境での初速を基準にしており、試合中の記録とは測定方法が異なります。
試合中に記録されたコールディング選手の426km/hは、公式戦で達成された最高速度として認定されています。
いずれもシャトルの初速に基づく数値ですが、ギネス記録の速度が練習環境での極限値であるのに対し、試合記録は実戦の条件下で測定された値です。
バドミントンのスマッシュ速度の特性

バドミントンで最も高速なショットはスマッシュです。スマッシュではラケットを大きく振り下ろして上から打ち付けるため、シャトルに膨大なエネルギーが伝わりやすく、高速になります。
スマッシュ以外のショットは速度が出にくいため、ここでは男子選手・女子選手別やシングルス・ダブルス別の速度傾向を見ていきます。
スマッシュの基本と特徴
スマッシュはジャンプスマッシュやステップ打ちなど形はさまざまですが、常に相手コートの奥深くへ強烈なロブや平行ドライブを狙う攻撃的ショットです。
トップスピンをかけることで弾道が落ちやすく、相手がリターンしにくい特徴もあります。
初心者にとってはシャトルの速さが恐ろしいと思えますが、実際にはシャトルは飛び始めた後すぐ減速していくため、正しく構えることで返球も可能です。
男子選手のスマッシュ速度
男子プロ選手のスマッシュ初速はおおむね300~400km/h程度と言われています。
世界記録の426km/hはダブルスのコールディング選手によるもので、スマッシュ主体のダブルス選手が最高速度を記録する傾向があります。
トップ選手の松友や桃田選手などは、試合中で平均して時速350~400km/h程度のスマッシュを打ち合います。
女子選手のスマッシュ速度
女子プロ選手の場合、スマッシュの平均速度は男子よりやや低めです。
公式なギネス登録はありませんが、女子世界ランカーのラチャノック・インタノン選手が2016年に記録した約372km/hが知られています。
女子ダブルスの選手も含め、一般には約300km/h前後のスマッシュが出せれば非常に速いと評価されます。
シングルス・ダブルス間の速度差
シングルスではコート全体を使う戦術が多く、スマッシュだけで決めるよりラリーを重視する場合も増えます。そのためダブルスほど極限まで速度を追求しない傾向があります。
一方、ダブルスではネット前にポジショニングしつつ強力なスマッシュで相手を制圧するため、スピード重視のプレーが多いです。結果として、ダブルス選手の方が試合中の最高速度が出やすいと言われています。
シャトルの飛行速度と空気抵抗の関係

バドミントンシャトルは約5グラム前後と非常に軽く、先端のコルクと羽根の組み合わせによる独特な形状をしています。
この形状はシャトルに安定した回転を与え、飛行中に羽根がブレることを防ぎます。一方で大きな空気抵抗を受けやすいため、飛び出した直後から急激に減速していきます。
以下ではシャトルの構造や空気抵抗による速度減衰、気象条件の影響などについて詳しく見ていきます。
シャトルの形状と飛行の特徴
バドミントンシャトルは先端にコルク製の台があり、その周りを16枚前後の羽根が囲んでいる形状をしています。
重さは約5gと極めて軽く、羽根部分が大きいことからパラシュートのような性質を持ちます。
このデザインにより、シャトルは投げられたときに一気に回転し、ブレずに直進します。
しかし、軽量で羽根が多いために空気抵抗が大きく、飛び始めの速さほど速度が下がりやすい特徴があります。
空気抵抗による速度減衰
高速で打ち出されたシャトルも、飛行中は激しい空気抵抗を受けて速度が急速に低下します。
研究によれば、シャトルは約2メートル飛ぶごとに速度が約30%も減少するとされています。
例えば初速が360km/h(100m/s)なら、13.4メートルのコートをわずか約0.134秒で横切る計算になります。
この極端な速度低下によって、選手の手元に届く頃には時速100~200km/h程度の比較的低速なスピードになります。
温度・気圧が飛行に与える影響
シャトルの飛行距離や速度には気温や気圧も大きく影響します。
空気が薄い夏場や高地では同じ力で打ってもシャトルはより遠くまで飛び、逆に冬場など気温が低いと空気が密で抵抗が増すため飛行距離が短くなります。
季節や体育館内の温度変化だけで飛行距離が数十センチ変わることもあるため、国際大会では空調管理にも注意が払われます。
シャトルのスピード番号(飛び番号)とは
スピード番号(飛び番号)とは、シャトルを同一環境で打った際の飛びやすさをランク分けしたものです。
同じ力で打っても環境によって飛び方が変わる問題を解消するため、羽根やコルク台の厚みなどを微調整して飛距離を統一しています。
シャトルには2番から5番などの番号があり、一般的に「2番」は高温(夏用)対応、「3・4番」は春秋用、「5番」は低温(冬用)対応とされています。
番号が一つ変わると飛距離は約30cm変動するとされ、適切な番号のシャトルを選ぶことでプレー中の飛行特性と体感速度を安定させています。
反応速度と飛行時間の関係
バドミントンのラリーではシャトルがコートを飛び越える時間が非常に短いため、選手は人間の反応時間の限界と隣り合わせで戦います。
例えば時速360km/h(100m/s)で打たれたスマッシュはわずか0.134秒でコートを横切りますが、人の平均視覚反応時間は約0.2~0.3秒、運動反応も0.4~0.6秒程度です。
この短すぎる飛行時間では目で追ってから反応するだけでは間に合わず、選手は相手の動作を先読みして返球する必要があります。
速度を左右する要因:ラケット・シャトル・技術
シャトルの速度は選手だけでなく、ラケットやシャトルの特性、打ち方にも大きく左右されます。
ラケットの重さやバランス、ガットの張り方、使用するシャトルの種類など、あらゆる要素が打球速度に影響します。
プロ選手は自分に合ったラケット・シャトルを選び、体幹や腕の筋力を最大限活かして高速スマッシュを生み出します。
以下では速度に影響を与える主な要因を詳しく見ていきます。
ラケットとガットの影響
ラケットの重量配分やフレーム形状はスマッシュの速度に直結します。
ヘッドヘビー(トップライト)なラケットはラケットヘッドの慣性が大きく、速い振り抜きが得意です。一方、軽量で取り回しが良いラケットは細かなコントロールに優れ、速さと扱いやすさのバランスがあります。
また、ガット(ストリング)の種類やテンションも性能に影響します。一般にテンションを低めに張るとシャトルを弾く「跳ね」が増し、高速スマッシュを生みやすいとされます。
トップ選手は自分のプレースタイルに合わせてこれらの要素を調整し、理想的な速度とコントロール性の両立を追求しています。
シャトルの種類と品質
使用するシャトルも速度に大きく影響します。
高級なガチョウ羽シャトルは均一で高精度な飛行をし、打球速度が安定しています。一方、ナイロン製シャトルは羽に比べ重いため、同じ打球でも飛行速度がやや遅くなります。
また、羽根の品質や使用状況も無視できません。良質な羽根を使った新品のシャトルはキレイに飛びますが、使用を繰り返すと羽根がへこんで空気抵抗が増し、スピードが出にくくなります。
競技場では高レベル大会ほど新品シャトルの交換頻度が高いのは、このためです。
フォームとスイングスピード
スマッシュの速度はフォーム(打ち方)の良し悪しによっても変わります。
腕を振り下ろすだけでなく、体全体の力を連動させることが重要です。腰をひねって上半身全体でスイングしたり、打つ直前に肩を大きく回転させたりすることで、同じ筋力でもより大きなパワーをシャトルに伝えられます。
また、ラケットが当たる面の向きやタイミングも影響します。インパクトの瞬間にラケット面を最適に合わせられると、シャトルに無駄なく力が伝わり速度が向上します。
筋力と体力の影響
最後に、単純に筋力やコンディションも速度に影響します。
上半身や体幹の筋力が強いほど、同じフォームでもシャトルに加える力が大きくなり、弾速も増します。特に肩・背中・腕の筋力はスマッシュパワーに直結します。
筋力に加えて持久力も重要です。疲れてフォームが崩れると、いくら筋力があっても最大スピードは出せなくなります。
トレーニング状態や年齢差によっても速度には個人差が生じることは否めません。
速度向上のためのトレーニング方法

スマッシュ速度を向上させるには、技術面と身体面の両方をバランスよく鍛えることが必要です。
ここでは効果的な練習法とトレーニングのポイントを具体的に紹介します。
スイング速度を高める練習
動作の効率を上げるため、自分のスイングフォームを鏡や動画で確認しながら練習します。
素振りではラケットにわずかに重りをつけて振ると、振り抜く筋力が強化されます。実際にシャトルを打つ際は、腰のひねりを意識して体重を使うことを心掛けましょう。
反復練習でしっかりシャトルを捉える感覚を養うとともに、スイング中の体の連動性を高めることで、無駄なく速いスマッシュが打てるようになります。
- フォームに集中した反復練習
スイング軌道を最適化し、効率的な打ち方を身につけます。 - 負荷をかけた素振りトレーニング
重り付きラケットや低反発シャトルで練習し、打球時のパワーと速度を強化します。 - バドミントン専用トレーニング器具の活用
振り子練習機やシャトル打ち込み機などで、実戦的にスイング速度を鍛えます。
フットワークと反射速度の鍛錬
高速スマッシュに対応するためには、フットワークと反応力の向上も欠かせません。
フットワークボードやラダーを使って素早いステップを習得し、どこからでも瞬時に打球位置に移動できる敏捷性を養います。
パートナーとの高速連続ラリー練習で瞬時の読みと反射を鍛えたり、メディシンボール投げや反応トレーナー器具でスタータースピードを高めたりすることも効果的です。
- ステップ練習
フットワークラダーで機敏なステップを訓練し、正確なポジショニングを実現します。 - シャトル連続打ち練習
短距離ラリーを続けて反射神経と判断力を鍛え、実践に近い状況で反応力を高めます。 - 反応トレーニング
メディシンボール投げや反応器具を使い、動き出しの速さを向上させます。
筋力トレーニングとコンディショニング
肩や背中、体幹の筋力を強化するトレーニングも重要です。ウェイトトレーニングでショルダープレスやプランクなどを行い、スマッシュに必要な筋力を養います。
瞬発力を高めるためにジャンプスクワットやバーピージャンプなども取り入れましょう。また、肩や腰回りのストレッチをして柔軟性を高めることで、可動域が広がりスムーズなスイングが可能になります。
筋トレとあわせて十分な休息と栄養補給も忘れずに行い、コンディションを整えてトレーニング効果を最大化します。
- 筋力トレーニング
ショルダープレスや体幹トレーニングで上半身の筋力を強化します。 - 瞬発系トレーニング
ジャンプ系の運動で瞬発力とパワーを同時に鍛えます。 - 柔軟性トレーニング
肩・腰のストレッチを徹底し可動域を広げ、スイング動作をスムーズにします。
実戦練習とデータ分析
実戦を想定した練習も欠かせません。速いスマッシュへの対応力を高めるため、連続スマッシュ・レシーブ練習やロボット打ちに取り組みましょう。
また、自分や世界トップ選手の試合映像を分析して、速いシャトルを打たれたときの体の動かし方や捌き方のコツを学びます。
シャトル速度計測器を使って自分のスマッシュ速度を数値化し、目標を設定することもトレーニングのモチベーションになります。
- 速スマッシュ返球練習
連続スマッシュ練習でリアクションと守備位置の対応力を鍛えます。 - 映像分析
試合動画でトップ選手のスマッシュ時の動作を研究し、対応策を身につけます。 - 計測と目標設定
自分のスマッシュ速度を計測し、具体的な目標を立てて練習します。
バドミントンの速度:他のスポーツとの比較
バドミントンの速度が突出していることを実感するため、他のスポーツと比較してみましょう。
例えばテニスのサーブはプロで約260km/h、野球の最速投球は約170km/h程度、いずれもバドミントンの速度には及びません。
以下の表は各競技・活動の代表的な最高速度を示しています。
競技・乗り物 | 最高速度(km/h) |
---|---|
バドミントン(スマッシュ) | 493 |
テニス(サーブ) | 263 |
野球(投球) | 169 |
リニアモーターカー | 603 |
市販車(ブガッティ・ヴェイロン) | 490 |
テニスや野球など球技との比較
表からわかるように、バドミントンのスマッシュ速度はテニスや野球と比べても圧倒的です。
テニスのプロが記録するサーブでも約260km/h程度と、バドミントンの記録には及びません。
野球の速球は170km/h前後が最高とされ、いずれもバドミントンの速度を下回ります。
このように比較すると、バドミントンがいかに速さを誇るスポーツかが実感できます。
モータースポーツとの速度比較
リニアモーターカーやスーパーセダンの最高速度は数百km/hに達しますが、これは持続的加速で得た速度です。
バドミントンは一瞬のスイングで高速を生み出す点が特異で、一概に直接比較は難しいです。
それでも、瞬間速度で500km/h近い値に達するという事実は驚異的であり、瞬時に人間の限界に挑むスポーツであることがわかります。
人間の反射速度とバドミントン速度
速度を競うという点で、人間の反射速度とも比較できます。一般的に人間の視覚反応時間は0.2秒前後、運動反応は0.4秒前後とされる中で、バドミントンのシャトルは0.1秒台でコートを飛び越えます。
つまり、バドミントンのスマッシュは物理的な反応能力を超えているため、選手は反射だけでなく相手の動きを読む戦術を駆使する必要があります。
これらの比較からも、バドミントンのスピード競争の激しさと特殊性が見えてきます。
まとめ
バドミントンはシャトルの驚異的な速さと、それに対応する俊敏な動きが魅力のスポーツです。
最高速度はギネス記録で493km/hにも達しますが、実際には飛行中に速度が大きく減衰するため、反射時間内に打ち返すには相手の動きを読む力が不可欠です。
速度を上げるには適切なフォームや筋力強化だけでなく、シャトルやラケットの特性に応じた機器の選択とトレーニングが重要です。
今後もラケットやガットの進化、トレーニング理論の発展などでさらにスイング速度は向上する可能性があり、バドミントンのスピード競争はますます激しさを増すでしょう。
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