明けましておめでとうございます。西島です。
昨年は日本のバドミントン界にとって、飛躍の一年でしたね。世界のスポーツ記者が投票で選ぶ2014年のアスリート・オブ・ザ・イヤーでは、バドミントン男子が日本勢で唯一、ノミネートされたとのことでした(チーム部門)。残念ながら受賞には至りませんでしたが、世界から見れば、「2014年を代表する日本のスポーツはバドミントンだった!」と言えそうです。今年、日本のバドミントン界からどんなエキサイティングなニュースが届くのか(このサイトから発信できるか)を楽しみに、今年もお付き合いください。
さて今回は、新年のスタートを飾るに相応しく、「運動と脳の研究はここからスタートした!」といっても過言ではない、代表的な研究成果の紹介です。
その研究成果は、1995年にNature誌に掲載されました。昨年、残念な形でNatureという名前が有名になってしまいましたが、研究者なら誰もがあこがれる超一流の科学雑誌に、運動と脳に関する研究成果が掲載されたのです。それは、下の写真のとおりたった1ページで、論文というよりも投稿記事に近いものでした。
(著作権保護のため、拡大しても読めないようにサイズを小さくしています。)
タイトル:Exercise and Brain Neurotrophins (運動と脳栄養因子)
著者:Neeper SA 他 (カリフォルニア大学)
Nature, 1995, 373(6510):109.
その内容は、「実験動物(ラット)に2~7日間の運動を行わせると、海馬という脳部位で脳由来神経栄養因子(BDNF, brain-derived neurotrophic factor)が増えた」というものです。たったそれだけの内容なのですが、その影響力は特大でした。
まず、この海馬という脳部位が持つインパクトです。海馬は「記憶・学習」を担っている部位で、たとえばこの海馬を手術で取り除いてしまうと、新しく物事を記憶することができなくなります(H.M.という患者の悲劇の物語が有名)。また、老化やストレスによって海馬が萎縮することから、海馬をいかに健全な状態に保つかが、老化による認知機能の低下を予防したり、またうつ病などの精神疾患を予防するために重要になります。
そして、BDNFという栄養因子の大切さです。BDNFは神経細胞にとってまさに栄養となるタンパク質で、神経細胞の成長や生存を助けます。いかにしてBDNFを増やすことができるかは、脳機能を高める方法を探る研究者にとって、大きな関心事でした。
このような背景の中、Nature誌に掲載されたこの論文は、運動で海馬のBDNFを増やすことができることを明らかにしたわけです。これを機に、「運動によって脳機能を高めることができる可能性」が脚光を浴びるようになりました。
こちらは、科学論文を検索するサイト(PubMed)で、運動(exercise)と海馬(hippocampus)をキーワードに検索し、ヒットした研究論文の数をグラフにしたものです。1990年代の後半から、急激に論文数が増えていることがお分かりいただけると思います。
何事にも始まりがありますが、「運動によって脳機能を高めることができる」という研究は、このNature誌に掲載された論文から始まったと言えます。このような先駆的な研究成果が掲載される(先駆的な研究成果でなければ掲載されない)から、やはりNature誌は一流誌と呼ばれるのでしょう。
BDNFは何かといった専門的な内容が苦手な方であっても、「Nature誌という超一流の科学雑誌に、運動によって脳機能を高めることができるという研究成果が掲載されていた」、ということだけでも、是非、知っていただきたいと思います。それだけで、体育・スポーツに否定的な人に対して、自信をもって体育・スポーツの意義を主張できると思いませんか?
さて、次回はもうひとつの有名な1999年に報告された論文について、紹介させていただきます。
西島 壮
p.s. 前回の記事で、アメリカで行われている「生活のための体育(Physical Education for Life)」について触れたのですが、その活動を進めるNPO団体(PE4LIFE)が作成した紹介ビデオがありました。残念ながら英語のみになりますが、子供達が楽しそうに身体を動かしている様子だけでも、観る価値は大きいと思います。
[youtube http://www.youtube.com/watch?v=DFI0MsAYqH0]
「こんな施設がない」
「こんなにお金をかけられない」
といった意見も聞こえてきそうですが、そのような小さなことにとらわれず、「体育の授業で子供達を笑顔にするヒント」を探してみてはいかがでしょうか。