なぜ、サイドのスマッシュに届かないの?

そのプレーヤーは、動きがとても速いです。しかし、サイドにスマッシュを打たれた時に、腕を伸ばしても、触れなかったり、ミスをしてしまいます。バランスを崩してしまうこともしばしばです。

 

◯バランスを崩すとは、そもそもどういうことなのでしょうか?

ヒトが、直立した(直立二足歩行)のは、約350万年前と言われています。直立したことにより、積み木でタワーを作った時のように、身体の重心(身体のバランスの中心)が高くなり、バランスをとるのが、4足歩行時より難しくなりました。

積み木のタワーを組み立てる時は、長四角の積み木パーツを、縦に積み上げますが、この積み上げた積み木に当たるのが、背骨(脊柱)にあたります。このタワーの展望台の位置にあるのが、頭部になります。

頭部は、脳が格納されており、上半身では重いパーツです。その重いものが、一番上部についていることで、さらにバランスを崩しやすくなっています。

止まっているときは、脚部の骨でしたら、骨の端と骨の端がまっすぐ積み重なることで、「関節間力」という上下に働く力を均衡させて、バランスをとっています。

間接間力

また、ゆっくり歩くときは、重心をゆっくりと移動させ、バランスを崩さないよう、筋肉が伸びる部分と縮む部分(拮抗筋)や、骨と骨を結ぶ蝶番のようなインナーマッスルなどで、バランスをとっていきます。

しかし、バドミントンのように急激に動き出したり、止まったり、方向転換するスポーツでは、バランスをとるために、両足を開いて両足間の距離を大きくして、より安定的に身体を支えるようにします。
(エッフェル塔や東京タワーをイメージしていただければわかりやすいと思います)

  パワーポジション        Eiffel

この両足間のスペースのことを、「支持基底面」(以下、「基底面」と記述)と言います。要は、電車で揺れた時に脚を開きますが、あれが、基底面を拡げたと言い換えられるのです。

基底面

(参考)基底面について、詳しくは、「バド×チェック」の近藤洋さんの記事がわかりやすいので、ご参照ください!
動き出しのスピードを高めるためには?~まとめ~

電車の例でわかるように、基底面(両足間の距離)を拡げれば、身体のバランスは安定し、狭くなれば、バランスが崩れやすくなります。要は、重心(へその下、骨盤内にあります)が、基底面より外に出ると、バランスが崩れやすくなります。

 

◯ところが、彼は、両足を左右に大きく拡げていました。

よく女性にありがちなのが、両脚が狭い(閉じた)状態で(基底面が狭い)状態で、動き出し時にバランスを崩すことがあります(上図左)。
これは、もう少し、肩幅より少し広いくらいに脚を拡げてもらうことになります。

ところが、このプレーヤーの場合は、両脚をそこそこ開いて、構えています。基底面は充分にとっていたのです。

例えば、先ほどの電車で揺れた時に、姿勢を動かないように、堪えたら、どうでしょうか?言い換えると、大きな左右の揺れに対して、重心を全く動かさないようにした場合、こらえきれなくなると、一気に重心が両足間のスペース(支持基底面)より出てしまい、上半身が側転のように、サイド方向に倒れてしまいます。

但し、彼自身は、重心を横方向に移動しているつもりでいました。しかし、実態としては、重心は動いておらず、上半身のみが横方向に移動していて、それを重心が移動したと錯覚していました。

サイドのスマッシュなどへの攻撃を、レシーブする場合には、両目でシャトルを覗き込むように見ながら打つため、上半身を横方向に捻ります。すると、自然に股関節と膝が横方向に曲がり、横に傾斜した上半身で重心付近が隠れてしまいますので、重心が移動したように見えたのです。

そして、重心を移動できなかった原因の1つに、シャトルが来たサイドの足のつま先と膝が、正面を向いたままになっていたことがあげられます。

股関節外転

股関節で、大腿骨は、骨盤に向かって、横斜め下からはまる構造になっています。ですので、つま先や膝を前にむけたまま、横に大きく重心を動かそうとすると、大腿骨がつっかえ棒のように、骨盤が横方向に動こうとするのを引き止めます。骨盤が動きにくい分、骨盤の位置にある重心も動きにくくなります。

重心が動きにくい中で、速度の速いスマッシュで、サイド方向に急激に傾いたために、側転のように、重心が円軌道で若干、上にあがり、バランスを崩したと考えられます。

 

◯それでは、どうすれば、よかったのでしょうか?

重心を固定せずに、両足間のスペース(基底面)内で、シャトルが来た方向に、重心を(床と平行に)移動し、上半身を伸ばせばよかったと考えます。

重心移動

基底面内での重心移動は、基本、バランスを崩しません。ただ、重心移動にも、エネルギーが要ります。それは、シャトルと逆方向の足のアキレス腱反射(踵を1センチ位上げて、踏み込む。アキレス腱が急激に伸ばされるので、切れる危険を感じた脊髄(背骨内)が反射で、アキレス腱を縮ませるエネルギーを利用する。)や、膝抜き(脱力してお尻(重心)を10センチほど落とす。)などで、筋力や床からの反力を使って、重心移動させます。

重心移動1 重心移動2 重心移動3

また、その際に、動くサイド方向の足のつま先と膝を外側に開くように動かします(親指の下の膨らみの「拇指球」を支点にする)(股関節の外旋運動)。そうすると、骨盤と大腿骨でできる横方向の角度が45度くらいに開く分、つっかえ棒状態が解除され、重心を横方向に移動しやすくなります。

基底面内での重心(腰やお尻と意識するとわかりやすい)移動は、動き出し時に、非常に重要な要素となります。例えば、後に移動する時に、動作が速いのでわかりにくいですが、一旦、前足に重心を移動してから、その反動や、前足のアキレス腱反射、床反力などで、重心を(一気に)基底面外の後ろに動き出させます。そうすると、身体全体も後ろに動き出します。

 

◯さらに、外側にシャトルが来た時には、どうするのでしょうか?

基底面から重心を、瞬間的に外に出すことになります。これが、いわゆる、ダイブです。急激に外に出した後に、インパクト、片脚を大きく出して、基底面を拡げて、身体を安定させ、支えます。

重心移動2           重心移動4

戻る際は、もう片方の足を引き寄せたりして、基底面を再び狭め、重心を元の方向に動かしていき、戻る動作を発動します。

 

次回は、「弱点を攻めてるのに、決まらない…どうして?」です。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※指導で、実際に有益な効果があがったことを確認の上で、報告しておりますが、技術の答えは、一つではないと考えております。他の指導法を否定する意図はございません。その点、ご理解の上で、お読み、お試しくだされば、ありがたいです。

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樋口 孝雄バドミントン技術研究・指導者(フリーランス)

投稿者プロフィール

バドミントン技術研究・指導者(フリーランス)
1966年2月4日生
東京都国分寺市在住
実践学園高等学校 女子バドミントン部ヘッドコーチ
平成29年度全国中学生大会神奈川代表コーチ

競技歴:1982~2001年
指導歴:2002年~

私のバドミントン生活は高校から始まりました。運動系全般が苦手な私でしたが、何かスポーツをやりたくてバドミントン部を選びました。
当時、技術指導者はいませんでしたので、仲間よりワンテンポ遅れてしまう自分が、どうしたら理論的に技術が身につくかを、常に考えるようになっていました。この頃の背景がベースになり、今の私の技術指導スタイルが確立されたといえます。

元来、教えることが好きなこともあり、十数年前に小学生の指導を始めました。時間が許す限り、バドミントンのみならず、他競技のDVDや書籍etc.情報を集めては分析・検証し、よりシンプルでわかりやすいスキルアップ方法とは何か、知識と経験を積み上げてきました。現在は、技術指導者のいない中学生を中心に、学齢前から成人までのサポート活動をしております。

同じ指導でも、すぐ体現できる人もいれば、時間のかかる人もいます。指導する側にも、個性を生かした工夫が求められていると、身につくまでの道のりが遠かった私自身の体験から、感じています。

これまでの蓄積と、今後のさらなる追求を少しでも共有でき、特にお悩みを抱えている方々の微力ながら、お役に立つことができれば幸いです。
よろしくお願いいたします。

競技歴詳細:

東京都立小平西高→法政大学バドミントン同好会72

主催指導活動:

「癖動作矯正指導法」研究及びレッスン
→(http://minton.blog.jp/archives/306166.html)
西国分寺バドレッスン for 中高生 代表者
→ (https://minton.jp/Group/detail/158)
バドミントンNPO団体 東村山フリューゲルス代表者

外部指導活動(東京都内):

実践学園高等学校 女子バドミントン部ヘッドコーチ
平成29年度全国中学生大会神奈川代表コーチ
堀越高等学校 男子バドミントン部
練馬区立中村中学校
東久留米市立中央中学校
他中高計8校、一般3団体

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