第19回:バドミントンに必要な感覚(授業教材6)

 

先週末は、世界選手権で3つの銅メダルを獲得(史上最多)、そして池田信太郎選手の引退(9月、ヨネックスオープンにて)など、様々なニュースが届いてきました。筑波大学の後輩である池田選手が引退することは本当に寂しいことですが、これまでの彼の活躍、そして日本のバドミントン界への貢献は計り知れません。元チームメイトとして、本当に誇らしい限りです。私も、ここで記事を書き続けることでバドミントン界に少しでも貢献できれば、と思っているのですが、そう思いながら前回の投稿から3週間もたってしまいました・・・。未熟さを痛感しています。

さて、前回から「感覚」をテーマに、授業で扱っている内容について紹介させていただいています。バドミントンをプレーする際には、下の図にあるとおり、①様々な情報を脳に入力する②脳がそれらの情報を処理し運動をプログラミングする③運動指令を出力する、という大きく3つの過程があります。私もそうなのですが、バドミントンを指導する際にはどうしても、正しいフォームであるとか、シャトルの打ち分けであるとか、②から③に関することが中心になってしまいます。しかし、無意識に行われている①から②の過程について知ることは、「何故、私たちはバドミントン(運動)をすることができるのか?」を、より正確に知ることにつながります

20150817

前回の「視覚」の話に続き、今回は「聴覚」について、まとめていきます。

聴覚を遮断して外界の音が聞こえない状況を作りたいのですが、そのまま説明しても面白くないため、授業では学生に、「イヤホンで好きな音楽を聴きながらバドミントンをしてみよう!」と伝えます。すると学生は、「わぁ~、なんか楽しそう!」と、食いついてきます。みなさんは、どうでしょうか?イヤホンで音楽を聴きながら、バドミントンをやってみたいですか?それとも、やりたくないですか?そう思うのは、何故でしょうか?そこが、今回のテーマの鍵になります。

便利なことに、この時代、ほとんどの学生がスマートフォンや携帯型音楽プレーヤーを持っているため、前の授業でその準備をお願いすると8~9割の学生はちゃんと授業に持って来てくれます。もちろん持っていない学生や忘れてくる学生もいるため、その学生には使い捨ての耳栓を配り、授業を始めます。

まず、半面1対1で打ち合うと、片眼に眼帯をした時とは異なり、「打てなくなる」ということはありません。むしろ、好きな音楽を聴きながら行っているので、「楽しい」「テンションが上がる」というポジティブな感想がほとんどになります。

次に、音楽を聴かせながらダブルスを行わせます。このとき、音楽を聞くのは必ずペアの片方だけにします。そして、「パートナーとぶつかる可能性が大きいから、無理してシャトルを追わないように。特に、後衛のプレーヤーは注意すること」とを、念入りに指導します。実は、これが完全なネタばらしになってしまうため、本当はこのような注意を一切せずに行わせたいのですが、授業で怪我をさせる訳にもいかないので、仕方がないですね。

その状況で数試合、ダブルスをさせた後に感想を聞きます。すると、その感想はネガティブなものへと変わってきます。

一番多いのが、「パートナーや相手とコミュニケーションがとれないから、孤独・不安だった」という感想です。このような感想が一番多いことは予想外だったのですが、私にとって非常に嬉しいことでもありました。というのも、体育という教育の場でバドミントンを行っているため、バドミントン・スキルを向上させること以上に、コミュニケーション・スキルを向上させることを、授業の大きな目的としているためです。

大学における体育の授業は特殊で、学年や学部の異なる学生が集まって行われます。そのため、学生たちは授業当初、「知らない人が大勢いる中、うまくやっていけるだろうか」という不安を抱えています。しかし、授業を重ねるうちにその不安が解消され、「コミュニケーションをとりながらだと、バドミントンはさらに楽しくなる」ということを体験していきます。これは、講義形式の授業では決して体験することができません。まとめのレポートにも、「自分は人見知りだが、授業では自然とコミュニケーションをとることができた。それがスポーツの力だと分かった」という感想を書いてくる学生は、ものすごく多いです。

音楽を聞くことで聴覚を遮断したことにより、「パートナーや相手とコミュニケーションがとれないから、孤独・不安だった」という感想を抱いたことは、裏を返すと、「それまでは無意識にコミュニケーションをとりながらバドミントンを行えていた」ことになります。そのような自身の成長に気づくという意味でも、「聴覚を遮断した状態でバドミントンを行わせる」ということは、有効は授業教材だと感じています。

さて、それ以外にどのような感想があるのか・・・を書いていこうと思ったのですが、すでにかなりの文量になってしまいました。そして、この投稿を読んでいただいた方々にも、是非、実際に体感していただきたいため、みなさん、イヤホンで好きな音楽を聞きながら、ダブルスをやってみてください!!ちょうど夏休みですし、もし小学生のお子さんがいらっしゃれば、夏休みの自由研究の題材としてもいかがでしょうか?きっと、面白い体験をすると思いますよ。ただし、パートナーとぶつかる可能性が大きいので、決して無理はしないでください。特に、後衛のプレーヤーはよく注意してくださいね(怪我をされても、私は責任をとれません!!)。

来週(再来週?)、まとめの記事を投稿します。

西島 壮(首都大学東京)

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西島壮(にしじま たけし)バドミトンの新たな魅力について研究しています

投稿者プロフィール

生年月日:1978年7月23日
身長/体重:175 cm/63 kg
血液型:B型
出身地:長野県

略歴:
1997 長野県松本深志高校 卒業
2001 筑波大学 体育専門学群 卒業
2006 筑波大学大学院 人間健康科学研究科 体育科学専攻 修了
    博士(体育科学)取得
2006 筑波大学大学院 研究員(COE)
2007 財団法人国際科学振興財団 専任研究員
2007 カハール研究所(スペイン) 外国人若手研究員
2009 首都大学東京 助教

競技歴:
1999 全日本学生バドミントン選手権大会 ダブルス(2回戦)
2012 全日本教職員バドミントン選手権大会 30代ダブルス準優勝

専門分野:
運動生理学、運動神経科学

研究室ホームページ:
www.comp.tmu.ac.jp/behav-neurosci/

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