今回から数回にかけて、「バドミントンに必要な感覚」について、書いていきたいと思います。このテーマは昨年の授業から扱い始めたのですが、今学期も学生からは特に好評価でした。
なお、ここで言う感覚とは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚という五感のことです。さすがに、嗅覚や味覚はバドミントンのプレーに影響しないと思いますが、視覚、聴覚、触覚(正確には体性感覚)は、その感覚をちょっと操作してバドミントンをしてみると、本当に面白い体験をすることができます。そして、どれだけ無意識にそれらの感覚に頼ってバドミントンをしているか、その「無意識」に気付くことができます。
まずは、視覚からいきましょう。
「眼帯」をつけてバドミントンをしたことはありますか?
「眼帯」をつけた状態で、シャトルを打ち返せると思いますか?
ちなみに授業では、下の写真のような「張れる眼帯」を学生に配っています。
片眼が遮蔽されるので、生理学的に答えれば、「両眼視ができなくなり、物体(シャトル)との距離感がつかめなくなる」というのが正解です。そうだとしたら、「眼帯」をつけたらシャトルとの距離感がつかめず、シャトルを打ち返すことはできないはずです。
学生達の様子を見ていると、やはりほとんどの学生は空振りを連発します。空振りしながら、「打とうとしても、打てない」「打てたつもりが、打てていない」という非日常の経験を、声を上げて楽しみます。そして、自分たちがこれまで、「両眼視によりシャトルとの距離感をつかむ」という高度な情報処理を無意識に行っていたことを、身をもって体感します。知識として知っていることと、実際に体感して知ることは、全く違います。それを簡単に経験させることができるという点で、教育的効果は大きいのではと感じています。
そして面白いことに、最初から空振りせず、シャトルを打ち返す学生もいます。ちなみに私は、全く打てないタイプでした。そして生理学を勉強してきたがために、「眼帯をした状態で打ち返せるわけがない」と思い込んでおり、眼帯をしても初球からシャトルを打ち返す学生を目の当たりにした時は本当に驚きました。なぜ、彼らは片眼なのにシャトルを打てるのか、その理由は分かりません。ただ、生理学の教科書に書かれていることが全てではない、実際にやってみなければ分からない、ということは私にとって大きな教訓となっています。
また、最初は空振りを連発する学生も、徐々に空振りの回数が減り、シャトルを打ち返せるようになっていきます。これは、極めて短時間(数分以内)に起こります。片眼のみから入力された視覚情報でシャトルを打ち返せるよう、脳内の感覚情報処理になんらかの変化(適応)が起こっているのでしょう。一体、どんな変化が起きているのか非常に興味がありますが、我々の脳の柔軟さに改めて気付かせてくれる瞬間です。
是非1度、眼帯をしてバドミントンをしてみてください。想像している以上に、面白い体験ができると思いますよ。これは実際にやってみないと分かりません!
ただし1つ、注意があります。人によっては、やりすぎると気持ち悪くなるので、くれぐれも気をつけてください!!これは、視覚は平衡感覚としても使われているため、片眼が遮蔽されたままで頭を動かすと平衡感覚までもが狂ってしまうからです。あえてそれを体感することもありかもしれませんが、そこまでする意味は無いと思いますので、そこは各個人の判断で(笑)。
次回は、聴覚について、書いていきたいと思います。お楽しみに。
西島 壮(首都大学東京)