こんにちは、山村です。
前回はアミノ酸がどのようにエネルギー源として振る舞うのか、『糖原性、ケト原性アミノ酸』、『糖新生』という2つのキーワードからお話しました。様々なアミノ酸がTCAサイクルの中間体へと代謝され、ATP産生に一役買っていることは、前回解説した通りですが、TCAサイクルは『好気呼吸(酸素を必要とする代謝方法)』でしたね。
そこで今回は『嫌気呼吸』と呼ばれる、酸素を利用できない環境下で行われる代謝に関してお話しようと思います。スポーツなど激しい運動下では、十分に酸素供給がありませんから、こちらの代謝がメインで行われています。
<嫌気呼吸にはいくつか種類がある>
代謝の元になる素材はグルコースであり、ここは好気呼吸と同様です。以下の図を御覧下さい。
これはグルコースからピルビン酸が合成される経路を示しています。前回の投稿では矢印で省略されていた部分です。(前回の図の左上にあたります)
ここまでは共通であり、2つのATPを合成する事が出来、一応エネルギー産生は行われていますが、『TCA回路を利用すると38個のATPが生成する』事から、そのエネルギー産生力は段違いです。酸素がない状況下ではピルビン酸はTCA回路に入ることを選択せず、乳酸やエタノール等になります。(※)
(※) 後者はアルコール発酵と呼ばれ、細菌などがこの代謝経路を利用しています。これを利用して醸造が行われているわけです。他にもピルビン酸から酢酸を作る細菌も存在し、これはお酢作りに利用されています。従って嫌気呼吸と一口に言っても、どんな生物が行うかによって、最終生成物が異なる場合があります。
<嫌気呼吸によって生成した乳酸、しばしば疲労の原因とされているが…?>
激しい運動によって、疲労の元となる乳酸が溜まってしまう…という話をよく耳にしますが、こうして生成された乳酸は、その後どのような運命を辿るのでしょうか。
① 酸素がその後供給されると、アセチルCoAに変換される
乳酸⇔アセチルCoAは簡単に変換することが出来、運動後に酸素が再び供給される(好気呼吸しても大丈夫になる)と、再びTCA回路が回り始めます。
② 筋肉から肝臓に運ばれて、ピルビン酸を経て、グルコースに変換される
前々回の投稿で、『グルコース・アラニンサイクル』という経路をご紹介しましたが、これと類似した経路があります。筋肉から血中へと乳酸が放出され、その後血流を介して肝臓にまで運ばれます。肝臓ではピルビン酸を経て、その後糖新生によってグルコースに変換されます。これを発見者の名前に由来して『コリ回路』と呼びます。
まとめると上図のようになります。
こうした代謝系を介して、産生された乳酸はすぐに消費されていきます。従って、『身体に乳酸がずっと溜まっていること(時間)は、ほぼありません』。
エネルギーを産み出す方法は、グルコース以外に脂肪を由来とすることが出来ます。脂肪を由来とした場合もアセチルCoAができ、TCA回路に入っていくのですが、グルコースと違うポイントとして、この時に乳酸が生じません。
つまり 『(一時的にであるが)乳酸が溜まる』 ≒ 『グルコースをエネルギー源として利用している』 という図式が成り立ちます。
脂肪やアミノ酸と比べて、グルコースが最もエネルギー源として素早く立ち振る舞えるため、これが枯渇するとエネルギー不足、つまり疲労感を感じることになります。
まとめると、『乳酸が溜まるから疲労感がある』のではなく、『グルコースを利用した、疲労感を伴うエネルギー産生をすると、その副産物として乳酸が生じる』 というのが正しい解釈になりますね。
今週はこの辺りで。また次回!!