こんにちは、西島です。
いよいよ新年度が始まりましたね。気持ちを新たに、部活動の練習に励もうと思っている子ども達も多いのではないでしょうか。そんな時期だからこそ、今回は「子どもの運動と認知機能との関係」について、最近の研究結果をご紹介したいと思います。
もしかしたら、多くの方が「認知機能」ではなく、運動と「学力」との関係を知りたいと思われるかもしれません。しかし、ここで言う認知機能とは、周囲に惑わされず注意を向ける能力や、物事を短期間記憶する能力などを指しています。つまり認知機能とは、学力を根本から支える基本的な能力(脳力)と言うことができます。
これまで、体力(主に有酸素能力)が高い子どもほど認知機能が高いことを示す研究は比較的多く報告されていて、運動は子どもの認知機能を高めると考えられています。しかしながら、より信頼性の高い実験デザイン(ランダム化比較試験)で、運動と認知機能との関係を調べた研究は極めて少なく、一致した見解は得られていませんでした。そこで、イリノイ大学のヒルマン教授の研究グループは、8~9歳の子供達を「運動プログラム参加群」と「待機群」にランダムに分けて、9ヶ月間の運動プログラムが認知機能を向上させるか調べました。
タイトル:Effects of the FITKids Randomized Controlled Traial on Excutive Control and Brain Function. (FITKidsランダム化比較試験が、実行調節と脳機能に及ぼす影響)
著者:Hillman CH. ほか(イリノイ大学、アメリカ)
Pediatrics, 134(4):e1063-1067, 2014
この研究は、私と大学院で同期だった紙上敬太先生(現、早稲田大学)が中心メンバーとして参加したプロジェクトで、その詳細は読売新聞でも詳しく紹介されています(読売新聞の記事)。同期の活躍は嬉しさ半分、そして悔しさ半分というのが正直なところですが、是非、多くの方に知ってもらいたい成果なのは間違いありません。
詳しい実験の内容は記事を参照していただくとして、実験の概要は以下の通りです。
- 8~9歳の子ども達を、運動プログラムに参加する群(109名)と、待機群(112名)に分ける。
- 運動プログラム参加群は、放課後(週5日)に、2時間の運動プログラムを9ヶ月間実施する。
- プログラムの前後で、認知機能を評価する。
そして実験の結果、運動プログラムに参加した子ども達の方が、認知機能がより向上したことが明らかになりました。その理由として、運動プログラム参加群で、認知テスト中の脳活動が大きいことも分かりました(下図、参照)。さらに、運動プログラムに参加した回数の多い子どもほど、認知機能の増加が大きかったようです。
なんとこのプロジェクトは、2009年から2013年の5年もの年月をかけて実施されました。そして、子ども達を対象とした研究になるので、認知テストを魚のイラストで行うなど、数多くの工夫がなされています。なにより、この種のランダム化比較試験では通常、運動群と非運動群として実験を行うのですが、この研究では非運動群ではなく「待機群」としています。というのは、「私も運動群に入りたかったのに・・・」といった不満を子ども達に与えないために、「待機群」となった子ども達にも、9ヶ月間の実験期間終了後に同様の運動プログラムを提供しているのです。年月だけでなく、多くの努力と思いやりがあってこそ、成し遂げられた研究です。(ランダム化比較試験については、第6回の記事も参考にしてください。)
「運動は子どもの認知機能を高める。」
この結果から学ぶべきことは、数多いと思います。
つい先日、某テレビ局でスポーツ選手が参加するクイズ番組(と言っておきます)がありましたね。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。娯楽としては面白かったと思います。しかし、一流アスリートが笑いのネタにされるのは、体育・スポーツに関わる者として悔しくもあり、複雑な気持ちで見てました。
「練習していれば、勉強しなくても良い。」
この考えは、子ども達の将来を否定する、本当にもったいない考え方だと思います。なにより、今回紹介した研究をはじめ、多くの研究が「積極的に体を動かす子どもほど、脳機能が高い」こと、つまり「学力を向上できるポテンシャルが高い」ことを示しています。今後、一流スポーツ選手を夢見る子供達に対して、指導者がこんな無責任な言葉を吐かない時代になることを、心の底から願っています。
西島 壮(首都大学東京)