こんにちは、西島です。
さてタイトルにもあるとおり、皆さんはタバコを吸うこと(喫煙)と動かないこと(身体不活動)、どちらが体に悪いと思いますか?
こちらは2012年に、ランセットという有名な医学誌に掲載されたグラフです。喫煙(smoking)と身体不活動(inactivity)について、その該当者の割合、危険度、人口寄与危険度、そして死亡者数をまとめています。左から、その結果を見ていきましょう。
該当者の割合:
喫煙者が全世界人口の26%であるのに対して、なんと35%もの人が身体活動量が足りておらず、その割合は喫煙者よりも高いことが分かります。
危険度:
喫煙の危険度は1.57、身体不活動は1.28。冒頭の問いに対して、「タバコの方が体に悪い」と答える方がほとんどだと思いますが、危険度という立場で考えればその答えは正しいと言えます。
人口寄与危険度:
ちょっと難しい考え方ですが、「タバコという危険因子がこの世の中から無くなると、世界中の死亡者数は8.7%減少する」という結果になります。興味深いことに、身体不活動に該当する人が多いため、「身体不活動という危険因子が無くなると、世界中の死亡者数は9.0%減少する」となり、身体不活動の値が喫煙の値をわずかに上回っています。
死亡者数:
人口寄与危険度をもとに、死亡者数を求めた結果です。「タバコという危険因子がなくなると、世界中の死亡者数は510万人減少する」、「身体不活動という危険因子がなくなると、世界中の死亡者数は530万人減少する」となっています。
さて、改めて冒頭の問い「タバコを吸うこと(喫煙)と動かないこと(身体不活動)、どちらが体に悪いと思いますか?」を考えてみましょう。単純に危険度を考えれば、タバコの方が体に悪いと考えて間違いありません。しかし、我々の社会にとっては、タバコよりも動かないことの方が体(社会)に悪いと考えることもできます。
ここまで読んでいただいた方の中には、なんとなく狐につままれたような、釈然としない方々も多いかもしれませんが、この論文がLancet誌に掲載された背景について、説明させて下さい。
2012年、ロンドンに編集部をおくLancet誌は、身体活動(Physical Activity)について特集を組みました。今回紹介した論文も、その特集のひとつです。2012年、そしてロンドンと言えば、ロンドン・オリンピックですね。この特集は、ロンドン・オリンピックを機に、健康のために身体活動がいかに重要かを改めて強調するため企画されました。その特集の中、私が特に感銘したのが、今回紹介した結果を載せていたこの論文です。
タイトル:Stressing harms of physical inactivity to promote exercise (運動を勧めるために、身体不活動の悪影響を強調する)
著者:Wen CH, Wu X.
Lancet, 380: 192-193, 2012.
日本では平成14年に健康増進法が制定されて以降、受動喫煙防止のために公共の場で禁煙・分煙が進み、喫煙者も減少しています。「禁煙のメリット」ではなく「喫煙の害」を強調したことが、このように優れた成果をもたらしたひとつの要因と言われています。この成功例にならえば、運動による健康増進政策を成功させるためにも、運動の効果を主張するだけでなく、身体不活動の害を強調することも有効だと考えられます。今回紹介した結果は、「身体不活動は、喫煙と同程度かそれ以上の害悪を与える」ことを、明確に示しています。
「運動は健康にいいですよ」と言われても、運動をしようと思わない人は大勢いますよね。でも、「あまり動いていないあなたのその生活は、死のリスクを高めていますよ」と言われたら、「もうちょっと体を動かさなくちゃ」と思う人はもっと出てくるのではないでしょうか。
そもそも、熱中できる運動・スポーツがあれば、そんなことを言われることもありません。全ての子どもたちが、生涯にわたって熱中できる運動・スポーツを見つけることができれば、身体不活動なんてことを問題にする必要もなくなります。東京オリンピックを機に、このような価値観が浸透していけば良いなと、そのために少しでも貢献できればと思っています(東京都の公立大学の教員なので!)。
共感いただいた方は是非、東京オリンピックまでお付き合いください!皆さんの所属するバドミントン・クラブで、少しずつでもこのような価値観を広めていただけると嬉しく思います。
西島 壮(首都大学東京)