第5回:正月○○を解消するために

 

こんにちは、西島です。

1月もすでに半分を過ぎましたが、みなさんは普段の生活に戻りましたか?私は、正月太りを解消するために、ようやく最近になって運動を再開しました。

この時期の決まり文句ですね。決まり文句すぎて、ほとんどの方が違和感なく読み進めてしまったと思います。でも私はテレビやラジオでこういう言葉を聞くたびに、何とも言えない悲しい気持ちになります。というのは、「運動は、エネルギー消費(体重減少)の手段でしかない」という考えを強く示している典型例に思えてならないからです。

先週は、学習・記憶を担っている海馬という脳部位で、運動によって神経細胞が増えることを紹介しました。しかしながら、海馬の神経細胞が増えたからといって、いったいどんなメリットがあるのでしょうか。本当に記憶・学習能力も高まるのでしょうか?

先週紹介した研究グループも同じ疑問を抱いて実験を行い、見事に運動が学習能力を高めることを明らかにしました。

タイトル:Running enhances neurogenesis, learning, and long-term potentiation in mice. (運動は、神経細胞の新生、学習、長期増強を促進する)
著者:van Praag H. ほか(ソーク研究所、アメリカ)
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96(23):13427-13431, 1999

この研究ではマウスを使って実験を行っているのですが、マウスの学習・記憶能力はどのように調べることができるのでしょうか。そもそも、マウスがなにかを学習したり、記憶したりできるのかも不思議ですよね。でもマウスたちを侮ってはいけません。彼らは、かなり賢いです。

マウスの記憶・学習能力を調べる実験では、「モリス水迷路」という課題が広く使われています(イギリスの脳科学者・モリス(Morris)が開発したのでこのように呼ばれます)。マウスを大きな円形プール(直径1~2メートル)に入れると、水が嫌いなマウスは逃げ場を探して必死に泳ぎます。このプールには、1か所だけ踏み台が置かれており、この踏み台にたどり着けばマウスは休むことができます。このテストを何回も繰り返すと、マウスは踏み台がどこにあるかを学習して、そこに到着するまでにかかる時間が短くなります。

百聞は一見にしかず。こちらの動画をご覧ください。
(本当に、便利な世の中になりました)

[youtube http://www.youtube.com/watch?v=LrCzSIbvSN4&w=420&h=315]

【解説】

  • 10秒:Hidden platformと白丸が書かれたところに、踏み台があります。この踏み台は水面から1センチほど沈んでいるため、マウスは踏み台を見て探すことはできません。プールの周囲の手がかりを頼りに、踏み台がどこにあるかを学習する必要があります。
  • 12秒:マウスをプールに入れます。このマウスは初めてプールに入れられたため、何をしてよいかわからず、めちゃくちゃに泳いで逃げようとします。
  • 57秒:2分間泳ぎ回っても、マウスは踏み台を見つけることができませんでした。そこで実験者がマウスを踏み台に移して、「ここが逃げ場だよ」と教えます。マウスは最初混乱していて、そこが逃げ場になることを理解していませんが、これを何回か繰り返します。
  • 1分23秒:このマウスの1回目の記録(踏み台に到着するまでの時間、escape latency)は、2分となります。
  • 1分30秒:同じマウスの5日目(計10回目)のテストの様子です。
  • 1分41秒:前回とは異なる場所からマウスをプールに入れてます。このように実験ではスタート位置をランダムに変更しながら行います。
  • 1分44秒:踏み台に到着!!スタート直後に周囲の状況(自分の位置)を判断した後、一直線に踏み台に向かって泳いでいることに注目してください。
  • 2分4秒:10回目の記録は3秒。

「踏み台まで早くたどりつくほど、学習能力が高い。」

これを理解いただいたうえで、こちらの結果をご覧ください。実験では、運動を4週間行わせた運動群(●)と、運動を行わせていない対象群(△)にモリス水迷路を行わせて、その成績(踏み台までの到着時間)を比較しています。運動群のほうが到着時間がより早くなっていることから、対照群よりも学習能力が高いことがわかります。

20150119

なお、この研究では、モリス水迷路を1日に2回行わせる実験と、1日に4回行わせる実験と、条件を変えた2つの実験を行っています。1日に行う回数が少ないほど課題としては難しくなるのですが、興味深いことに、1日2回の難しい課題のときだけ運動による学習能力の向上効果がみられた報告しています。

「運動の効果は、難しい学習課題でより顕著に現れる。」

これが本当かどうかを私は判断することができないのですが、非常に示唆的で面白いなと感じています。「運動・スポーツを行っている人は、より難しい課題にチャレンジしたときに本当の力を発揮できる!」  魅力的な考え方だと思いませんか!?

余談ですが、おそらくこの研究グループは、最初に1日4回行わせる実験を行い、残念ながら運動の効果を明らかにすることができなかったのだと思います。そこで、「運動は学習能力を高めない」と結論することもできたのですが、「いや、もう少し課題を難しくしたら、運動の効果がみられるかもしれない。もう一回、実験条件を変えて再検討してみよう」と考えたのでしょう。その諦めない姿勢、研究者として見習いたいと思っています。

このように、運動は脳内で組織レベル・分子レベルの向上をもたらすだけでなく、実際にさまざまな脳機能を高めることが明らかにされています。決して、「運動は単なるエネルギー消費の手段でしかない」という訳ではありません。これを理解していただいたうえで、最後に一言。

1月もすでに半分を過ぎましたが、みなさんは普段の生活に戻りましたか?私は、正月ぼけを解消して仕事のパフォーマンスを上げるために、ようやく最近になって運動を再開しました。

(運動を再開したのは事実です!!)

西島 壮

p.s. 今日のYahooニュースに載っていた上原投手の記事が印象的でした。体育の教師になりたかった上原投手が浪人していた際、予備校が終わってからスポーツジムでトレーニングをしていたとのこと。上原選手は「気分転換で」とおっしゃっていますが、トレーニングの効果は気分転換だけではなかったはず!!年末にとあるスポーツ店に入った際も、店内放送で上原選手のインタビューが流れていたのですが、スポーツをしている子供たちへのメッセージとして、「勉強すること。そしてスポーツをできる環境を与えてくれる親への感謝を忘れないこと」をおっしゃっていたのも印象的でした。

 

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西島壮(にしじま たけし)バドミトンの新たな魅力について研究しています

投稿者プロフィール

生年月日:1978年7月23日
身長/体重:175 cm/63 kg
血液型:B型
出身地:長野県

略歴:
1997 長野県松本深志高校 卒業
2001 筑波大学 体育専門学群 卒業
2006 筑波大学大学院 人間健康科学研究科 体育科学専攻 修了
    博士(体育科学)取得
2006 筑波大学大学院 研究員(COE)
2007 財団法人国際科学振興財団 専任研究員
2007 カハール研究所(スペイン) 外国人若手研究員
2009 首都大学東京 助教

競技歴:
1999 全日本学生バドミントン選手権大会 ダブルス(2回戦)
2012 全日本教職員バドミントン選手権大会 30代ダブルス準優勝

専門分野:
運動生理学、運動神経科学

研究室ホームページ:
www.comp.tmu.ac.jp/behav-neurosci/

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