第2回:脳を鍛えるには運動しかない?

こんにちは、西島です。

今回は、古代ローマの哲学者、プラトンの言葉から。

————–
人生において成功するために、神は人にふたつの手段を与えた。
教育と運動である。
しかし、前者によって魂を鍛え、後者によって体を鍛えよ、ということではない。
その両方で、魂と体の両方を鍛えよ、というのが神の教えだ。
このふたつの手段によって、人は完璧な存在となる。

In order for man to succeed in life, God provided him with two means,
education and physical activity.
Not separetely, one for the soul and the other for the body,
but for the two together.
With these two means, man can attain perfection
————–

体育・スポーツに関わる人にとって、非常に勇気をもらえる格言だと思いませんか?私はこの格言を、以下の本を読んで知りました。

脳を鍛えるには運動しかない-最新科学でわかった脳細胞の増やし方-
著:ジョン・J・レイティ
訳:野中香方子
NHK出版(2009年)

20141229

この年末年始、お時間のある方は是非、読んでみてはいかがでしょうか。実際の研究成果を多く引用しているため、専門用語も多く難解なところもあるかと思います。それならば、「難しいな」と思うようなところは読み飛ばしてしまってください。紹介される人物の物語に注目するだけでも、一読の価値はあると思います。特に、第1章で紹介されるアメリカのある高校の「0(ゼロ)時限体育」の取り組みは、大変興味深いです。その内容は、おおよそ次の通りです。

・1時限の前、すなわち0時限に、「学習準備のための体育」の授業を行う。
・スポーツではなく健康(フィットネス)を教える。
・多様な種目から生徒自身が選択する。
・心拍計を利用し、目標心拍数(運動強度)で運動する。

その成果として肥満生徒が減少しただけでなく、学業成績も向上したとのこと。本にはどのテストで1位になったなど書かれてありますが、それが大切なことではないのでここでは割愛します。それよりも、この取り組みが「生活のための体育(Physical Education for Life)」という新しい体育の理念の基で実施されていることに、私は感銘を受けました。

ただ、この本はタイトルがいけません。

原著(英語)のタイトルは「SPARK – The revolutionary new science of exercise and the brain-」。 直訳すれば「きらめき-運動と脳に関する革命的な新科学」ということでしょうか。確かに、直訳では良いタイトルにならないですね。で も、「脳を鍛えるには運動しかない」という表現は、この本のメッセージからかけ離れています。

運動は、記憶や学習を司る脳部位である「海馬」で新しい神経細胞を増やすための、強力な刺激になります。その科学的事実を受け、そのプログラムに関わる体育教師のこんな言葉が紹介されています。

「わたしたちの授業では、脳細胞を作り出しています。それが育つかどうかは、他の教師の腕次第です。」

さ すがに私はこのような過激な発現をすることはできないですが、「脳を鍛えるのは学習であって、体育の授業(運動)は脳を学習に適した状態に準備している」という著者のメッセージを、良く表現していると思います。

「体育は、主要5教科の陰に隠れた実技教科のひとつで終わるのではない。体育の授業によって、子ども達が自身の健康を知り、さらに自ら管理することを教えることができれば、それは全ての教科を下支えすることにつながる。」

私は、この体育の可能性を、強く信じています。

この可能性をより多くの人に伝えるために、「運動は脳に良い!」という価値観や、それを支持する研究成果を強くアピールすることは、これから大切になってくると思います。そのために、この本は一読の価値があると思い紹介しました。決して、脳を鍛えるには運動しかない、というわけではありません。これからこの本を読まれる方は是非、このタイトルに惑わされず、その内容を楽しんで下さい。「学習」だけでなく、「不安」、「うつ」、「加齢」といった内容に関しても、非常に面白く書かれています。

次回からは、どのような成果がこれまで報告されているのか、運動と脳の研究が展開されるきっかけともなった有名な研究の内容について、具体的に紹介していきたいと思います。

では、素敵な新年をお迎えください!

来年も、よろしくお願いいたします。

西島 壮

 

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西島壮(にしじま たけし)バドミトンの新たな魅力について研究しています

投稿者プロフィール

生年月日:1978年7月23日
身長/体重:175 cm/63 kg
血液型:B型
出身地:長野県

略歴:
1997 長野県松本深志高校 卒業
2001 筑波大学 体育専門学群 卒業
2006 筑波大学大学院 人間健康科学研究科 体育科学専攻 修了
    博士(体育科学)取得
2006 筑波大学大学院 研究員(COE)
2007 財団法人国際科学振興財団 専任研究員
2007 カハール研究所(スペイン) 外国人若手研究員
2009 首都大学東京 助教

競技歴:
1999 全日本学生バドミントン選手権大会 ダブルス(2回戦)
2012 全日本教職員バドミントン選手権大会 30代ダブルス準優勝

専門分野:
運動生理学、運動神経科学

研究室ホームページ:
www.comp.tmu.ac.jp/behav-neurosci/

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